無理やり身体を開かれたあの夜から、ディートリヒは気まぐれに現れては魔法使いを抱いた。
抵抗しても、それはいつも徒労に終わる。
身長差もさることながら、彼の冷えた眼差しは魔法使いの身も心も固めてしまう。
恐怖・・・だと思っていたが、それとは違う抗い難い何か。
「あ・・・・あっ!」
自分の中で彼が熱くその存在感を示す。
男の自分が女性のように組み敷かれて高い声を上げる。
屈辱的なことの筈なのに、彼が内から出ていこうとするのがたまらなく淋しい。
身体中を這い回っている快感の渦は彼でなくては収まらない
自分より低い体温の彼が自分が強くしがみ付けば熱くなっていく
まるで自分の体温が移るようなその瞬間が、たまらなく欲しい
もっと熱く
もっと強く
もっと ああ、もっと…
抵抗はいつしか懇願になって、そして何も考えられなくなっていく
そして冷えた眼差しがほんの少しだけ融ける
もっと、その眼がみたい—-
けれど、すぐに頂点に誘われて眠りに落ちる
彼に抱かれると不思議と安らかに眠れる
いつしか、彼の訪問を待っているような己の感情を魔法使いは量りかね困惑していた
魔道艇は敵の攻撃を迎えうち、敵を倒しながら進む。
「魔法使い殿、大丈夫か!」
敵を倒しながらヴィラムの呼びかけに魔法使いは大丈夫と答えるが、その息は乱れていた
今日の敵は数が多い。多いというよりも際限なく湧き出てくるかのようにさえ思える。
カードを掲げ契約の詠唱。敵を倒すのと精霊が敵の攻撃を受け沈黙するのがセットになってしまっている
精霊が傷付けば、契約している己の体力も削られる。沈黙するほどの攻撃が加えられれば己の身体に痛みが走る
次から次へとなされる魔力の放出にコントロールが乱れ、魔法使いが討ち損じる敵の数も増えてドルキマス軍の面々にも疲れと焦燥が滲む。
涼しい顔をして敵を倒すディートリヒも余裕が無いのか、いつもの回復や攻撃力UPの補佐が無い。
あと2.3の攻撃を受ければ倒れるというギリギリの瞬間にかろうじて精霊のスキルで急場を凌ぐという綱渡りの戦いだ
それでも敵も無限ではなかったらしく、ようやく本体が見えてきた。
あれを倒せば終われる—-
本体を守るように立ちはだかる数体の敵を倒し、本体に向かって一番強力な精霊との契約を始める。
詠唱が終わり、精霊が本体への攻撃を開始する
「!!」
その時、視界に過ぎった黒い影。
本体の背後から飛び立った敵が、他の敵を相手にしているディートリヒの背に向かって手に持つ錫杖を振りあげる
魔法使いがディートリヒを庇うように立ちはだかり、新たなカードを掲げる
「魔法使い殿!!」
ヴィラムの叫びにディートリヒが振り返る。
本体への攻撃精霊との契約を維持したまま、別の精霊との契約は凄まじい魔力の消耗を余儀なくされた
己の防衛までは手が回らない。
放つ魔法が眼前の敵と本体を砕き
眼前の敵が魔法使いの攻撃を受ける前に錫杖から放った閃光が魔法使いの肩を射抜くのは同時だった。
肩に走る激痛と衝撃
魔道艇のデッキに身体が叩きつけられる。
肩から全身の力が奪われていく
「○○○—!!!」
意識が途切れる寸前に聞こえた自分を呼ぶ声。
ああ、彼が僕を名前で呼ぶのは初めてだ・・・
そのまま、魔法使いは意識を手放した
魔法使いが目覚め始めて最初に感じたのは、息苦しさとだるさだった。
特に肩のあたりの窮屈さが不快だ、と重い瞼を開ける。
薄暗い天井は見慣れた魔道艇の自分が寝室に使っている部屋だった
肩の窮屈さに手を這わすと包帯の感触がある
ああ、そういえば怪我をしたんだっけ・・・?
と意識を失う前に己に向けて放たれた敵の閃光を思い出した
「目覚めたか」
ぼんやりとしていた魔法使いは突然の声かけに一瞬驚き、声の主を探し視線を向けた。
そこにはディートリヒが立ち、その眼は魔法使いを睨みつけていた
魔法使いの胸倉を鷲掴みにし、引き起こす
回復処置をされているというものの、まだ完全ではない肩の傷と疲弊して発熱している身体が乱暴な扱いに軋んで悲鳴を上げた
「痛…っ…」
「いつ私が貴君に庇ってくれなどと命令した!?」
声を荒げるディートリヒに魔法使いは咄嗟に身体が動いてしまったと答える。
本当に何も考えず身体が動いてしまったのだ。それに嘘偽りはない
「貴君は己の立場をわきまえろ。私の駒であり私の物だ。」
「貴君が死ぬも生きるも私の管理下にあるのだ!今後勝手な行動は控えてもらう!!」
胸倉を掴む手に力がこもり、苦しさに呻く
だが、そんなことよりも魔法使いは彼の眼に釘付けになった。己を睨みつける眼、そこにあるもの—-
ディートリヒのその眼に宿っているのは 感情 だ。
一度も感じたことの無い、彼の『怒り』という感情だ。
真っすぐにぶつけられる激しい怒りと射抜き殺さんばかりに睨みつける眼
その鋭さは本来なら恐怖に震える種類のものだろう。
だが、魔法使いは今のディートリヒに恐怖は感じなかった
『兵など使い捨てだ』
『何人かの兵の命を捨て駒に進軍する』
あの人を人とも思わない冷めた眼
何の感情も無く命を戦いの道具にしか見ない、あの冷えた眼の方が数倍も怖いと感じていた
初めて自分を見た彼のその眼こその方が恐ろしかった
その彼が、命を落とすことへの怒りを示す
物が壊れようがどうしようが意にも介さなかった彼が憤っている
彼にとって、自分は物ではないのだ
いつから、自分は物ではなくなったのだろう?
抱かれている時に時折見せたあの冷えた眼差しが融けるようになったのはいつ頃からだろう?
その眼をもっと見たいと快楽の狭間で渇望するようになったのはいつからだろう・・・
僕は・・・
魔法使いは両手でそっと包むようにディートリヒの頬に触れた
そのまま唇を重ねる。
ピクリとディートリヒの身体が揺れた。
長い口づけから彼を解放すると怒りに染められていた彼の眼が驚きと戸惑いを含んで瞬いていた
ああ、こんな眼もできるんだね
またひとつ発見した彼の感情。魔法使いの胸は歓喜で満たされる
きっと、自分はこの眼に捕らわれてしまったのだ
もう逃れることは叶わないと己の心が自覚する
魔法使いの方から初めて触れてきた事実に驚きを隠せないディートリヒの首に腕を回し、そのまま引き寄せてベッドに背を沈めた
僕はあなたを—
胸の中で呟いた言葉の続きはディートリヒの重ねてきた唇に消えていった