弟子と師匠のハッピーバレンタイン

「キミ、起きるにゃ」
う~ん… まだ眠いよ…
「起きるにゃ。朝にゃ」
すりすりと首筋に柔らかい毛の感触
今日は休みだよ。寝坊しようよ…
その感触を避けてくるりとベッドにうつぶせの体制に寝返りをうつ
覚めかけた頭はまた夢の中へ・・・
「さっさと起きるにゃ!!」
ドスン! 
ぐえ!
背中に何かが直撃する衝撃にキミは飛び起きた。
背中にはウィズがどっかりのしかかっていた。
どうやらベッド脇のタンスの上からキミめがけて飛び降りたらしい。
酷いよ、起こすならもう少し優しくしてよと抗議する
「寝坊する方が悪いにゃ」
当然というように言うウィズ。
・・・いつもは自分の方が寝坊する癖に。
じと目で返すキミ。
「何か文句があるかにゃ?」

・・・ありません。

昨日までギルドの依頼をこなして疲れてた
だから休日である今日は昼まで惰眠をきめ込むつもりだったのに・・・
軽くため息をついてキミは仕方なくベッドを降りる。
「今から買い物に行くにゃ」
顔を洗って着替えているとウィズから声がかかる。
休日は食材のまとめ買いをしてるけど、先週はギルドの依頼で他国に出かけていたから食材が余っている。
特に買う物は無いよと答えれば
「あるから言ってるにゃ!早く支度するにゃ」
とウィズがせかす。
言い出したら聞かない師匠のことは充分に分かっている。
抵抗するのも無駄なので、はいはいとキミは返事をするしかなかった。

朝のマーケットは主婦層でごったがえしていた。
この街では採れない山菜や魚などの生鮮食材が漁場から直送されてくるので、それを目当ての客が訪れている。
特に買う物は無いと思っていたが、普段留守にすることが多く生鮮食品はまとめ買いできないので肉類や魚類はもっぱら保存のきく干し肉や干物ばかりだった。
久しぶりに新鮮な肉で料理しようかなぁと生鮮食品コーナーで物色を始めようとしたキミに
「そこじゃないにゃ、こっちにゃ」
とウィズがマーケットの奥へとキミを連れていく。
そこにはお菓子作りの材料が揃った棚。
「ケーキを焼くにゃ。味はチョコ味がいいにゃ」
キラキラとした目で見つめるウィズ。
あ~…僕にケーキを焼いてくれというわけね。
それで叩き起こされたのかぁ
やれやれとキミは思う。
「甘いのと苦めの大人の味の2種類がいいにゃ」
あ~…はいはい。
プレーンチョコにビターチョコ。
小麦粉はストック少なめだったから買い足そう。
ミルクと卵とバターと…
買い物籠にケーキ作りの材料を入れていく。
「ケーキには美味しいお茶にゃ」
はいはい。紅茶も買いますよ。
チョコレートケーキならミルクティーがウィズの口には合うかなぁ
甘党のウィズにはこっちの茶葉
僕はストレートで飲みたいからこっちの茶葉かな
今日はお菓子作りの日になっちゃったな。
新鮮な肉料理はまた今度にするしかないか。
生鮮食品売り場に多少の未練を残したまま、キミはマーケットをあとにした。

「形は可愛くハート型にするにゃ」
「甘い方のケーキは粉砂糖をかけるにゃ」
傍であれこれと指示を受け、キミははいはいとケーキ作りに勤しむ。
ふんわり甘い香りのふわふわ焼きたてケーキを窓際の小さなテーブルに並べて
じっくり吟味して買ってきた紅茶を淹れる。
甘い方のケーキはウィズに
甘さ控えめの方のケーキはキミの分と切り分ける
「完成にゃ。おいしそうにゃ」
満足そうにウィズが言う。
「お菓子の国の皆に聞いたのにゃ2月14日は恋人やお世話になった人や友達にチョコを送る日らしいにゃ」
へ~そんな行事があるんだね。
「だから、これは私からキミへのバレンタインのプレゼントにゃ♪」
「・・・え?」
えええええええええ?????
材料を買ったのが僕で
それでケーキ作ったのも僕で
それなのにウィズからのプレゼント?
おかしくない???
キミの顔には疑問符が後から後から湧いてくる。
「私が言い出さなきゃ、キミはチョコレートケーキなんか作らなかったにゃ」
うん、まぁそうだよね
「だから私が発案したにゃ。私からのプレゼントも同然にゃ」
ああそっか。確かにそうかもしれないなぁ
「美味しいにゃ?」
うん美味しいよ、ありがとう。
ほんわり笑ってお礼を言うキミ

いやいやいやいや、それ違くね?

どっかからツッコミが入りそうなヘンテコ解釈
だけどウィズもキミものんびりほんわかお茶会。

天真爛漫な師匠に
バカが付くほどお人よしの弟子
なんだかんだで気の合う二人はきっとこんな感じでいいコンビを続けていくのだろう—
お天道様がそんなふたりに優しく日差しを届けているハッピーバレンタインの一日だった