『待遇の改善を要求する!』
とキミは思った。
何が何だかわからないまま迷い込んだ異界で魔道艇が動かせるからというだけで勝手に兵にされ
挙句に自分の魔法が一番敵にダメージを与えられるからといつもいつも先鋒を任される
元の世界に帰る術もわからないし、彼らに協力するしかないのは重々承知だ。
だから戦いがもう嫌だとか逃げ出したいだとかは思わないが…
戦力になるというならもう少し労ってくれてもいいのに…と思う。
戦えばそれなりに魔道艇に傷は付くし汚れもする。
だからといってくたくたになるまで魔力を使った後で掃除しろとか、あまりにもひどい扱いだ
文句のひとつも言おうかと口を開いたら最初の1文字目でクラリアに頭をどつかれた
「上官に意見をするつもりか貴様!掃除が終わるまで食事は抜きだ!」
えぇぇぇぇぇ~~~お腹減ってるのに!
魔力使ってお腹減ってるんですけど!!!
『待遇の改善を要求する!』
と心底思う
「貴様!上官に逆らうのかぁ!!」
何も言ってないのに、なんだか頭の中で思ったことを見透かされたらしい。今度は蹴られた
なんで頑張って協力してるのにこんな扱い受けるわけ?!
『待遇の改善を要求するぅぅぅ!!(大事なことなので二度言うぞ)』
・・・と思いながらも口には出せず、キミはデッキブラシを片手にため息を漏らした
やっと夜遅くに掃除を終わって食堂に来てみればすっかり大皿の中もお鍋の中も空っぽでついでに皆もいない
マジですか・・・
食事が無いと認識したら、お腹はぐぅ~と食べ物を寄こせと主張した。
「なんだかひどいにゃ」
とウィズががっくりと肩を落とすキミに慰めとばかりに頭を擦りつけた。
いいよ、自分で作るから。とキミが言うとウィズは目を丸くした
「キミ、料理できるのかにゃ?!」
簡単なものだけならね、と答えてキッチンに向かうと食材をチェックした。
野菜を2~3種、出汁用にがら肉
小麦粉に卵にミルク バターもあるから…
パンケーキに野菜スープとデザートはリンゴを切ろう
お腹空いてるからガッツリと肉を食べたいところだけど、夜も遅いし朝胃もたれするのも嫌だから軽くにしよう
ウィズもそれでいい?と聞けば彼女もそれでいいというのでメニューはそれで決まりだ。
出汁をとる間に野菜をきざんで、小麦粉に卵とミルクと砂糖を手早く混ぜて…
手際よく料理をするキミにウィズが感嘆する
「うまいもんだにゃ~」
自分を育ててくれた両親の少しでも役に立ちたくて色々手伝っているうちにこの程度はできるようになったとキミは答えた
くつくつと煮立つスープに野菜がほっこりと色づいてとろりとしなりながらスープの海を泳ぐ
そろそろ良い頃かなとウィズに「味見してみる?」とカップにスープを注いで差し出した
あっと、焦げちゃう!とフライパンの中でふんわり焼けるパンケーキをひっくり返しながら
どう?と声をかける。
「おいしいにゃ~」
とウィズの満足そうな声
「ふむ、悪くはないな」
「え~?充分美味いですよ俺は」
「ええ、素材の味が引き立ってますね」
「元帥閣下の舌に合うなら貴様の腕も認めよう」
・・・に交じるのは?
恐る恐る振り向くと、いつの間にかテーブルについているのはドルキマス軍の面々にディートリヒ
いつの間に???
ぽかんとするキミにクラリアの怒号が飛んでくる
「貴様!この人数でこれっぽっちの量で足りるか!さっさとおかわりを作れ!」
え?そりゃ僕とウィズの分だけだし
って…、ちょ!なんであんたたちのを作らなきゃいけないわけ?夕食食べただろう??
「さっさとしろ!」
お尻を蹴られて、キミはあたふたとスープの追加にパンケーキを次から次へと焼いていく
「まだかい?」
「まだですか?」
「もう1枚貰おうか」
「まだ足りんぞ!何をもたもたしている!」
おかわりの声に追われて、キミはさながら人気レストランのランチタイム状態。
デザートのリンゴが皆のお腹に入るころにはキミはすっかり燃え尽きていた
夕食くいっぱぐれた上になんでこんな目に・・・
「よくやった。これを飲め」
クラリアがいつものお茶をキミに渡して他の皆と食堂を出ていった。
食べ散らかされた食器と大量のキッチンの料理道具に脱力感が容赦なく襲ってくる
ああでも、このお茶はいつ飲んでも美味しいなぁ~ごっくん
・・・
・・・・・
って!水分で腹がふくれるかぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
すっかり使いきった食材と食い物寄こせのお腹の主張にテーブルをひっくり返したい衝動に駆られる
が、そんなことしたら後片付けは自分がやることになる
そういえば夕食の食器もまだ出しっぱなしですが、あれも僕がやるんですか?
僕がやるんですよね、そうですよね。。。
『待遇を改善してください お願いします』
唯一残ったリンゴをしゃくっと齧りながら、キミは深く深くため息をついた